社長のひとりごと026

社長のひとりごとVol.26「祖父の言葉」

厄介なことが起こると、必ず祖父の言葉を思い出します。
「この世で起こることは、ぜーんぶこの世で収まる。
あの世まで追いかけちゃあ来んけえ、なーんも心配せんでええ・・・」
なるほど、所詮、人間生まれて死ぬだけのこと。
あれこれ考えても仕方ない、と僕自身ふっ切れるんです。
祖父は、今から10年ほど前に93歳で亡くなりました。
豪放磊楽な性格で、またおそろしくわがままな人でもありました。
15歳で単身渡米し、下積みを経て起業。一財産築いて帰国しました。
「お金はすぐ逃げるが、土地は逃げん」と、ほとんどのお金を土地に換えました。
ところが、残念なことに戦後の農地改革で、ほとんどの土地を政府に取り上げられて
しまいました。
今の造幣局に当たるところが、それです。
普通なら「今までの苦労が水の泡だ」と嘆くところですが、祖父は「あれ(土地)が
無うなって良かった。あれが残っとったら、今よりまだ苦労しよるところじゃ。
腰が痛いくらいじゃあ、すまんで・・・」と言って畑を耕していたそうです。
とにかくポジティブで、他人の悪口や愚痴は絶対に言わない人でした。
また、セールスの人が来ると「むげに断っちゃあいかん。あれら(彼ら)も
仕事じゃけえのう」とか、「値切っちゃあいかん。あれら(彼ら)も生活が
あるんじゃけえのう」と言っていました。
そのおかげでしょうか、僕は訪問したお宅で、大抵きちんとお話が聞いてもらえるし、商談では、ほとんど値切られた経験がありません。
祖父の徳だと思って感謝しています。
今でも印象に残っているのは、亡くなる前に入院していた時のことです。
祖父も高齢のため、かなり衰弱していて自力で歩けなくなり、弱気になっていました。
僕は、そんな祖父を車椅子に乗せて、病院の屋上に連れて行きました。
ちょっと肌寒いくらいでしたが、目の前に広がる地御前の海は、太陽の光を照り返して、とても美しく輝いていました。
「じいちゃん、寒くない?」と聞くと、「だいじょうぶ」と、こっくり頷きました。
少し寒そうにしていたので「ほんとに大丈夫?」と聞くと、「うん、大丈夫」と。
それで、、僕も気持が良かったので、しばらく一緒に海を眺めていました。
が、後日、祖父はそれが原因で風邪をひいてしまいました。
きっと少しでも長く、僕と一緒にいたかったのでしょう。
「寒い」と言ったら、僕が帰ってしまう。そう思ったんだと思います。
お見舞いに行き、「寒かったんじゃろ?ごめんね。」と僕が謝ると、祖父は、
「ありゃあ、関係ない。あん時は、暑いくらいじゃった。」と微笑んでくれました。
僕が責任を感じないように、後悔しないように、祖父の最期の思いやりでした。
今でも、ときどき祖父のやさしい笑顔を思い出します。
「ひでくん。この世で起きることは、この世で解決する。心配せんでええ。」
                      
                       代表取締役社長  岡本 英之(2013.6月号エコヨムより)